今回解析するのは「水谷公生(みずたに きみお)」の<A PATH THROUGH HAZE(宇宙の空間)>(1971年発表)です。
ここに何の変哲も無い直径12センチの有機高分子化合物・ポリカーボネイトで出来た一枚の物体がある。それをCDプレイヤーにセットしスタートボタンを押す。程無くしてスピーカーから静かに・・・そして確実に1971年の「奇跡」が空間に漂いはじめる。
01. A PATH THROUGH HAZE
02. SAIL IN THE SKY
03. TURNING POINT
04. TELL ME WHAT YOU SAW
05. ONE FOR JANIS
06. SABBATH DAY'S SABLE
07. A BOTTLE OF CODEINE
08. WAY OUT
水谷公生(e-g, folk-g) 寺川正興(b) 猪俣猛(d) 佐藤允彦(h-org, pf, moog-Syn) 鈴木宏昌(e-pf) 武部秀明(b) 伊集加代子(vo) 外山ストリングス・カルテット 江藤ウッド・カルテット
※ジャケット裏面には柳田ヒロさんがクレジットされていませんが、中写真にははっきりと柳田ヒロ(h-org)と記されています。
水谷公生さんは1960年より本格的な音楽活動を始め、現在もギタリスト、アレンジャー、プロデューサー等、第一線で活躍されている御仁であります。
詳しくはこちらのインタヴュー記事を参照して下さい。
↓
http://www.moment.gr.jp/26/interview.html
さて、私が水谷公生さんを知ったのは、「風」というニュー・ミュージック系のグループが1977年に発表した「海風」というアルバムが最初でした。そのアルバムのタイトルナンバーの「海風」で8小節と短いながらも実に印象的なギター・ソロを披露していました。そのプレイが水谷公生さんのモノだということを後ほど知る事になるのです。それから、南こうせつさんの「ねがい」に収録された「今日は雨」、ヒロスケさんの「深夜営業午前2時」や浜田省吾さんの「愛の世代の前に」、村下孝蔵さんの「初恋」・・・そして以前紹介した「NEW YORK」の「ニューヨーク・サブウェイ」など等、私が若かりし頃聴いたお気に入りの音楽の多くに彼の名前を見つけては驚いた事を記憶しています。しかし・・・そんな多くの作品に名前を刻み、尚且つ長い芸歴にも係わらずソロ・アルバムが今回紹介する<A PATH THROUGH HAZE(宇宙の空間)>だけだったりします。そういった観点からも実に貴重な音源と言えますね。
また、水谷さんばかりに気を取られてしまいますが、参加ミュージシャンの素晴らしい事!!!今や押しも押されぬ大御所が名を連ねていますネ。残念ながら武部秀明さんと鈴木宏昌(コルゲン)さんは他界なされてしまいました。本当に残念です。
01. A PATH THROUGH HAZE
ハモンド・オルガンとベースが静に空間を漂い、ミニ・ムーグのスペーシーなサウンドを縫う様に、円やかで豊潤な中音域のギターサウンドがやさしく響き渡ります。しかし、程なくしてアクの強い無骨なディストーションサウンドの鬼気迫るパワー・コードがその静寂を打ち破るかの様に鋭く切り込み、そこから先は激しさと野性味溢れる力強さ漲るサウンドに変化して行きます。それは「静と動」其々が確固に存在し、そして見事に調和する事によって圧倒的な存在感を放っています。一曲目にして、このアルバムの方向性を示す道標ともいえる作品です。
02. SAIL IN THE SKY
哀愁漂うサウンド・・・それはまるで遠い昔に何処かで聴いた様な・・・そんな記憶の彼方から語りかけて来る様な・・・しかし、それも束の間、けたたましいファズ・トーンのダーティーな歪みによってその微かな記憶も打ち消されてしまいます。
鈴木宏昌さんが奏でるエレピの煌びやかな中にも少し肌寒い空気感が漂う澄んだサウンドと、それと対照的にザラついて粒が粗い歪みワイルドなサウンドによってどこまでも内省的に綴られる水谷さんの鬼気迫るスリリングなプレイの対比が実に独自の世界観を創り上げています。それはまるで「光と影」様に明瞭で決して交じり合う事の無いながらも、実に不思議なバランス感覚を持ったサウンドとして存在しています。
03. TURNING POINT
どこか牧歌的でほのぼのとした一曲ですね。優しいメロディーラインはやはり心地良いの一言です。束縛から解放され自由気侭にくつろいだ雰囲気が伝わってきます。先の2曲の後だけにそう思うのでしょうか(笑)。しかし、そんな中にもやはり水谷さんの腰があるザラついたギターサウンドによって、時に繊細にく時に荒々しく彼独特のフレーズを聴かせてくれるます。
この一曲には水谷さんの持つ野性味溢れる力強さと、ナイーブとも言える洗練された美しさをが共存しています。
04. TELL ME WHAT YOU SAW
イントロの重く引き摺るようなワイルドでヘヴィーなユニゾン・フレーズが実に印象的です。しかし・・・その定石とも言える様式を打ち破るかの如く、突如として現れるフリージャズの手法をサイケデリックなサウンドで表現した巨大なエナルギーに圧倒されるのでした。この傍若無人とも言える心の趣くままに自己を投影した前衛的でアグレッシブなサウンドの洪水は圧巻!!!!特に水谷さんと佐藤允彦さんの鬼気迫る非論理的で無軌道なアヴァンギャルドとも言えるインタープレイの応酬は絶句!!!また、地の底からの咆哮にも似たファズ・サウンドのベース、そして悶え苦しむ様子を表現したかの様な猪俣猛さんのドラム・・・この曲が持つ複雑怪奇で狂気的とも言える臨場感は私にとってまさにネオフォビアそのものです。兎にも角にも、異様な程に生々し鋭利なサウンドのよる凄まじい演奏が繰り広げられています。
05. ONE FOR JANIS
ジミー・ヘンドリックスとクラプトンが憑依したかの様な、まさにロック・スピリット全開の水谷さんのギターが炸裂しています。生々しい感情のバイヴレーションが圧倒的な存在感となって迫って来ます。攻撃性を全面に押し出したそのサウンドは熱いリズム隊によって力強くまとめられています。この当時(1971年)に是だけダイナミックで熱いギターを響かせていたとは!!!!今更ながらにしてただただ驚くばかりです。サイケデリック感覚を感じさせる一曲ですが・・・この曲自体が持つパワーはやはり一度直に体験して頂きたいですね。
因みに、タイトルの「ONE FOR JANIS」とは・・・1970年に他界した”ジャニス・ジョップリンの為に”・・・と言う事なのでしょうか???
06. SABBATH DAY'S SABLE
ゆっくりと流れ、そして哀愁が心に留まるブルージーでナイーブなサウンドは切なさと言うよりも・・・悲しみといったものを感じます。そして、そこに荘厳な雰囲気を漂わすストリングスによってノーブルさと言ったものが加味され、それらが調和のとれた非常に美麗な作品に仕上がっています。時に荒々しく、時に繊細なフレーズを聴かせてくれる水谷さんのギターをそっと包含する佐藤允彦さんのピアノに彼の美的センスを充分に堪能できますね。
07. A BOTTLE OF CODEINE
ディープでハードなリズム隊の上に、ハードロックの伝統的スタイルを継承しつつも水谷さん独自の世界観から創造されたギター・サウンドとプレイがは実に魅力的です。その自信に満ちたエキサイティングでエキセントリックなロック魂溢れる熱く襲いかかるようなサウンドはただただ聴き惚れるばかりです。リスナーをも自然と熱くさせてくれるそのリアリティーを存分にご堪能下さい。
08. WAY OUT
実に神秘的な雰囲気を漂わす・・・それは、霧が立ち込める深い緑の森をさ迷い歩く様な・・・そんな幻想的な風景も浮かんできます。しかし、そんな幻惑するかの如きサウンドなのに何処か懐かしさを感じさせる・・・そんな妙なる既視感(デジャヴ)が神秘的な美しさをより一層ひき立てています。それも全てスキャットで参加されている伊集加代子さんの存在感によるものに他なりません。彼女の澄んだ空気感をイメージさせるナイーブで情感豊かな声がこの曲の持つ退廃的な世界観に実に清楚で慎ましい美しさを加味しています。そしてその全てが併さることによって瞑想的でミステリアスな独自の空間を見事に創り上げています。
☆☆☆ ここが私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆
このアルバムが発表された1971年(昭和46年)とは・・・・日本万国博覧(大阪万博)が開幕、よど号ハイジャック事件、三島由紀夫の割腹自殺、沖縄返還協定の調印・・・そして、音楽界に目を向けると・・・小柳ルミ子、南沙織、天地真理がデヴューし、尾崎紀世彦が歌う「また逢う日まで」がレコード大賞を受賞した、そんな時代でした。
1971年・・・私は当時まだ小学生でした。ですから、今回のアルバムをリアルタイムで聴いた訳では勿論ありません。それどころか、このアルバムを手にしたのは極々最近の事です。しかし、私はこう思うのです・・・1971年に既に是だけ偏執的ともいえる独自の確立された音楽が、しかもこの日本に存在したのか!!!・・・と。
今回のアルバムを比喩するのは実に難しいのですが・・・あえて誤解を覚悟で解りやすく説明すると・・・
ジミー・ヘンドリックスやクリーム(エリック・クラプトン)等、フラワー・ムーヴメントに代表されるサイケデリックなハード・ロックサウンド、そしてキング・クリムゾンやピンク・フロイドがその礎を築いたプログレッシブ・ロック・・・そのエッセンスを吸収し、そこにJAZZのインプロビゼーション中心の手法とスタイルを融合させる事によって導き出されたサウンドは、まさに斬新で彼達独自の世界観から創造された「新生」とも呼べるサウンドに他なりません。「唯一無二」といった言葉がまさにぴったりの作品です。そして最も重要な事は、リスナーを巻き込んでしまうその「迫力と存在感」・・・是にはただただ驚くばかりです。
1971年・・・当時はまだ世界的に見ても音楽ジャンルとして「フュージョン」と言う言葉はおろか、その前身とも言える「クロス・オーバー」すら存在していなかったと認識しています。しかし、ここに存在するサウンドは紛れも無く「クロス・オーバー」の原型そのものであり、今現在聴けば聴く程、このアルバムに刻まれたサウンドに新しい時代の幕開けとも言える息吹の様な生命力を実感します。時代を超えて現在のシーンにも違和感無く浸透できる立体的で奥行きのある空間芸術とも呼べるサウンドを繰り広げています。参加ミュージシャン全員の鋭い感性と比類なき創造力はただ驚くばかりです。そして何より、アルバムの端々から力強さといったものが滲み出ています。
今から37年も前のこのアルバムを語る時、ヒトは「懐古趣味」「古臭い昔の音楽」・・・そう呼ぶのかもしれません。しかし・・・今回のアルバムが持つ類稀なエネルギーやエモーション、そしてダイナミックなスケール・・・それを超えるサウンドが果たして現在にどれだけ存在するのだろうか?・・・そんな疑念を抱いてしまうのです。
このアルバムの達観とも言える先見性と有効性、そして高い感受性によって創り出されたサウンドは現在でも色褪せる事はありません・・・いや、色褪せては決していけない・・・そんな気がします。
このアルバムが1971年に存在した事を「奇跡的」と表現したいです。
最後に・・・今このサウンドと巡り合えた事に心から感謝しています。・・・
☆☆☆ 以上が私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆
***1971年のヒット曲*** 戦争を知らない子供たち、翼をください、出発の歌、あの素晴らしい愛をもう一度
それじゃ。また。
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