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2006/02/10

検体番号37 <Time No Longer(タイム・ノー・ロンガー-愛の黙示録-)>

37 今回解析するのは「Kazu Matsui Project (松居 和)」<Time No Longer(タイム・ノー・ロンガー-愛の黙示録-)>(1981年発表)です。

日本古来の楽器「尺八」は皆さんご存知だと思いますが、実際に演奏と音に触れた経験はそれ程多くない事でしょう。
数ある管楽器の中でも構造はシンプルですが、演奏の難しさは「首振り三年ころ八年」という諺が示すように、音を出す事さえ一朝一夕には出来ない演奏の難しさと、その奥深さを物語っています。

今回はそんな尺八奏者の松居さんがアメリカ西海岸のとんでもないミュージシャンと「Kazu Matsui Project」と銘打って作り出した記念すべきデビューアルバムです。

01.Overture(Rainy Moon)
02.Sunset And The Minstrel
03.Voice From The Dark
04.Dwarf’s Workshop
05.Goblin Hunt
06.Father On(Song From The Prison)
07.Bonfire(Centerdance)
08.The Desert
09.Time No Longer(The Great Time-Giant Wakes Up)

1981年の発売時は「愛の黙示録」という邦題だったのですが、CDの再発では流石に「愛の黙示録」は消されています。何も無かったかの如く。

01.Overture(Rainy Moon)
(bomboo flute)松居 和,  (pf)RUSSELL FERNANTE,  (g)ROBBEN FORD,  (syn)BRIAN MANN,  (harp) KATIE KIRKPATRICK MANN,  (b)ALPHONSO JOHNSIN,  (d)JEFF PORCARO

バスドラ、ギター、ベースがジャストビートで織成す8分音符刻みの力強いグルーヴはこの曲には欠かせない要因となっています。特にソロでは尺八独特のムラ息を巧みに使った襲うかかるような鬼気迫る緊迫感は凄い世界です。続くロベン・フォードのギターソロも、その雰囲気を崩す事無く見事に歌い上げています。このソロは私的にロベンの裏ベスト的テイクだと勝手に思っています。
題名どおり、尺八の奏でる音と、その存在感をまざまざと見せ付ける「序章」に相応しい1曲です。

02.Sunset And The Minstrel
(bomboo flute)松居 和,  (pf)RUSSELL FERNANTE,  (g)ROBBEN FORD,  (e-pf)BRIAN MANN,   (b)ALPHONSO JOHNSIN,  (d)JEFF PORCARO,  (per)STEVE FORMAN,  (vo)GRANT GULLICKSON

知性的で威厳のあるJAZZYなボーカルナンバーです。曲を彷徨う如くオブリガート的に流れる尺八の音色が、曲を神秘的に演出しています。ラッセル・フェランテのピアノも優美で、この曲に生命力と不思議な説得力をもたらしています。

03.Voice From The Dark
(bomboo flute)松居 和,  (g)STEVE LUKATHE/RROBBEN FORD,  (key)BRIAN MANN,  (harp) KATIE KIRKPATRICK MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL ,  (d)JEFF PORCARO,  (vo)CARL ANDERSON

尺八を使ってロックを演ってみました・・・といった感じです。なんといってもTOTOの最重要人物二人が居るんですから、その音は想像できますよね。ルカサーは完全に1981年の一番油の乗り切った頃の演奏を聴かせてくれます。感じとしては「WHITE SISTER」と「GIRL GOODBYE」をたして、酒のパワー(笑)を注入したかの様な御機嫌なソロを決めてくれています(基本的にDm一発で手癖バリバリに出しまくっていますし・・・)。
エンディングではギターのチューニングが狂っていますが、これも勢いのなせる熱い演奏といったところでしょうか(笑)。
大きな声では言えませんが・・・ボーカルは要らなかったかな(ゴメンナサイ)。
この曲は完成度とかコンセプトとかいった次元で聴かないで「勢いと熱さ」を感じ取ってください。

04.Dwarf’s Workshop
(bomboo flute)松居 和,  (g.chinese harp)RROBBEN FORD,  (e-pf)TERRY TROTTER,  (syn)BRIAN MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL,  (d)JOHN FERRAO,  (per)STEVE FORMAN

チョッと表現に悩む曲・・・いやSE的な演奏です。無国籍的風な演奏スタイルと実験的な作風がユニークです。和太鼓を模したドラムが面白いです。
この曲を聴いて連想したのは「煩悩」・・・分かるかな(笑)

05.Goblin Hunt
(bomboo flute)松居 和,  (g)LARRY CARLTON,  (e-pf)TERRY TROTTER,  (syn)BRIAN MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL,  (d)JOHN FERRAO

この作品はラリー・カールトンが作曲したのですが、逸話が有るようです。
ユーゴスラビアの「ナイーブアート」に興味を持っていた松居さんがその絵本と尺八を持ってラリーに「ゴブリン(悪魔の小人)を追っかけている曲を作ってくれ」と迫り、実現したそうです。因みにラリーを使えと言ったのはレコード会社だそうです(笑)。
抜けの良い枯れたラリーのギター・サウンドと、松居さんの”ユリ”を活かしたギターのようなビブラートと”カリ”を効果的に聴かせるチョーキングの様な奏法がラリーのギターが渾然となったスリリングな美的センスを充分に堪能して下さい。

06.Father On(Song From The Prison)
(bomboo flute)松居 和,  (pf)RUSSELL FERNANTE,  (g)ROBBEN FORD,  (syn)BRIAN MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL,  (d)VINCE COLAIUTA,  (vo)GRANT GULLICKSON

どこか懐かしい叙情詩的フォークソングをイメージさせるボーカルナンバーです。
切ないメロディーに尺八の音が重なり、見事な空間知覚とも言うべき広がりを感じさせてくれます。その空間を彷徨う「雲」の如く、浮遊感を演出したエイブ・ラボリエルのベースプレイに彼の懐の深さを感じます。
ロベン・フォードの実に美しく感動的な泣きのギターソロは流石。
(ドラムのクレジットが「VINCE COLAIUTA」になっていますが「VINNIE COLAIUTA」ですよね?)

07.Bonfire(Centeredance)
(bomboo flute)松居 和,  (g) LEE RITENOUR,  (pf)VICTOR FELDMAN,   (syn)BRIAN MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL,  (d)JEFF PORCARO,  (per)ALEX ACUNIA/STEVE FORMAN

凄いメンバーですね。この作品にリー・リトナーが参加していますが実は・・・この曲はエイブ・ラボリエルの作品なのですが、エイブの曲ならリトナーは変な事?しないだろうと行った理由だそうです。訳分かりませんよ(笑)。
たしかにこの曲でのリーのプレイは、ラフで自由奔放な感じですね。このギタープレイをリー・リトナーと断言できる人は相当のマニアだと思いますよ。それ程スタイルとアプローチが違いますから。もしかすると、この曲に対するアプローチを暗中模索したままレコーディングした感も否めません。ホントのところは???
しかし不思議な曲ですよ。もしかするとエイブが日本の「祭り」や「能」とか「歌舞伎」をイメージして書いた曲なんじゃないでしょうか?なんとなくBonfire(焚火)の周りでダンスといった題名がそれを物語っています。超天楽とか古典伝統芸能を意識したんじゃないかと・・・・勝手な想像です。

08.The Desert
(bomboo flute)松居 和,  (g)PAUL JACKSON JR,  (syn)BRIAN MANN,  (b)ABRAHAM LABONIEL,  (per)STEVE FORMAN

「笛の音に波もより来る須磨の秋」といった俳句でもどうぞ・・・・。
このアルバム中では一番ストレートな尺八を聴く事が出来る曲です。日本独特の花鳥風月を尺八のもつ圧倒的な存在感を、西洋楽器との融合で堪能して下さい。特にエイブのベースとのコラボレーションは絶品の一言です。
この日本的な曲を演奏するにあたり重要なのは、参加しているミュージシャン達です。良い意味で「自己主張を抑えられる、クセのない無垢なミュージシャン」の方がこの曲の魅力でもある、尺八の音色と雰囲気を活かしてくれます。

09.Time No Longer(The Great Time-Giant Wakes Up)
(bomboo flute)松居 和,  (g) ROBBEN FORD  (pf,syn)RUSSELL FERNANTE,   (syn)BRIAN MANN, (b)ABRAHAM LABONIEL,  (d)VINCE COLAIUTA,  (per)STEVE FORMAN

~Time No Longer~ がこのアルバムのタイトルになっています。聖書の黙示録に出てくる言葉で、地球が崩壊する時に巨人が現れ「Time No Longe」と言う件からの命名だそうです。ジャケットデザインもこのコンセプトです。「もはや時間は無い、巨人が目覚める。今がその時」・・・私には理解できないコンセプトで創られた作品です(笑)
しかし、この曲にこそ松居さんの主張が込められていると言えるでしょう。
素朴でありながら、これほど雄大な曲に仕上げられているのも、この曲のもつそんなコンセプトの成せる所以なのでしょう。
スティーブ・フォアマンの奏でるティンパニーがポイントで、是が故に威厳と風格と息苦しくなるほどの緊張感が倍増されるとは、アレンジの勝利ですね。聴き終えた後の余情を堪能して下さい。
何れにせよ、予定調和的に表面だけ取繕った音楽とは全く違う次元の音楽です。

☆☆☆ ここが私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆

音楽を業(あくまでもプロ)としている人は必ずしも「個性」とか「独自の音楽性」といったアイデンティティーを目標にしていると思います。そこで弊害となるのが「ジャンルといった壁」だったりします。

しかし、この作品はそんなジャンルという壁を軽々と超えて存在しています。それどころか松居さん曰く「最初からジャンル的な概念は無いんです」とコメントしていました。

この作品は、和楽器で既存のロック風な演奏をして 「これぞ和と洋の融合」 と言った、そんな安っぽいものでは全くありません。そう聴こえる曲も、聴き込むほどに、異なる素材を衝突させて、そこから生まれるパワーと、反対に内省的なイデオロギーの様なものすら感じます。

この作品が紹介される時、必ず「4大ギタリストをフューチューした・・・」といった謳い文句が必ず付きまといます。しかし、そんなキャッチセールス的コピーは、かえってこの作品に余計な先入観を抱かせてしまい、結果、時としてリスナーの評価を低くしてしまう危険性をはらんでいます。とは言ったものの、興味深い音源である事は間違い在りません。

それと、この作品はアルバムタイトルからも推測されるように、宗教的なコンセプトがあったりします。この点に関しては、リスナーの感性によって評価が分かれる作品といえるでしょう。

☆☆☆ 以上が私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆

*** 1981年のヒット曲 ***  ハイスクールララバイ 、 スニーカーぶる~す 、 万里の河 、みちのくひとり旅

<追伸>
チョッと興味が在り、尺八の奥義について付け焼刃ですが調べました。

「尺八の十徳」(久松風陽)
・携帯に便にして武器となる。
・思はずして他をよろこばす。
・期せずして交誼の媒介となる。
・伽なうして独居を慰む。
・薬なうして病を治す。
・努めずして善く風を移す。
・願はずして煩悩を去る。
・望まずして長寿を得。
・求めずして無我の境に達す。
・祈らずして神仏の心に叶ふ。

・・・凄い世界です・・・

それじゃ。また。

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コメント

こんばんは。お邪魔します。
やられました!近いうちにこのアルバムを記事にしようと思ってました。
少し先に延ばす事にします。
このアルバム好きなんですよね。尺八って世界に誇れる楽器にひとつではないでしょうか。
何故か「GOBLIN HUNT」だけ、ラリー・カールトンが自分でプロデュースしてますね。
それだけ力を入れた作品ていう事なんでしょうね。
アルバム全体としては、ロベン・フォードのギターが強く印象に残っていますね。

投稿: kaz-shin | 2006/02/11 00:25

早速のコメント、感謝します。

お先に失礼いたしました(笑)
このアルバムはいいですよね。雰囲気というかチョッと比較できるアルバムがありません。
(比較しなくてもいいですよね)

・・・<何故か「GOBLIN HUNT」だけ、ラリー・カールトンが自分でプロデュース>・・・指摘されるまで気付きませんでした。有難う御座います。

・・・<アルバム全体としては、ロベン・フォードのギターが強く印象に残っていますね。>・・・全くの同感です。ライナーにもロベンとヴィニーとエイブとラッセルの空間がベストだとコメントしてますし、尚且つチベット教徒でもあるロベンがこの作品を理解してくれているのも不思議・・・とも語っていました。
やはり、ロベンの醸し出すブルージーさが松居さんとは相性がいいんでしょうね。

投稿: FUSION | 2006/02/11 00:49

「4大ギタリストをフューチューした・・・」といった謳い文句でしたよね。(笑)
それで興味をもったわけじゃないんです。
松居和さんは喜多嶋修さんのアルバムに参加していたので聞いてみたかったんです。
これはレンタル・レコードで聞きました。(^_^)ゞ

オープニングのイントロ部分の雰囲気が喜多嶋さんの音楽に似ている感じがしました。喜多嶋さんのアルバムと比べると、日本的な部分は少ない気がします。これはこれで良いと思うんですけど、喜多嶋さんのアルバムの方が和洋フュージョンらしい面白いサウンドで好きですね。

投稿: WESING | 2006/02/11 19:08

WESINGさんへ。コメント感謝します。

喜多嶋修さんの件が出てくるところはさすがWESINGさん。
ライナーにも「僕(松居さん)は喜多嶋さんとの出会いがキッカケで音楽をやりながら・・・・」とありました。

私は喜多嶋修さんのアルバムをまったく聴いた事が無いのでWESINGさんのお勧めとなれば、機会を作って是非にでも聴いてみたいと思います。

追伸>ライナーの続きには・・・諸事情があって喜多嶋さんと松居さんは分裂した・・・とありました。

投稿: FUSION | 2006/02/11 19:38

こんにちは。最近は知らない方ばかりだなぁっと思っていたら・・・
松居慶子さんのご主人だったんですね。
松居慶子さんのCDは一時よく聴いていま
した。
BGMのように心地いい気分になれたので^^
和楽器では津軽三味線の上妻さんが好き
です。

投稿: よっこ | 2006/02/18 11:58

よっこさん。コメント有難う御座います。

松居慶子さんですが、この方が参加した意外なミュージシャンのアルバムを取上げようかと思っていたところにこのコメントが・・・(笑)

松居慶子さんの優しくて、どこか翳りのある旋律と滑らかなタッチのピアノはいいですよね。

投稿: FUSION | 2006/02/18 22:13

すごい作品が紹介されてますねーー!!
相互TBしていただけませんかーー??

投稿: Kenny U | 2006/03/27 22:12

Kenny U さん。はじめまして。
コメント感謝いたします。

そちらのブログにもお邪魔いたしました。
凄い!!超マニアック及びレアな作品の数々、相当詳しい方とお見受けしました。特に日本のフュージョンレビューにはびっくりです。

TBの件ですが、こちらこそ宜しくお願いいたします。

今後も宜しく御付き合い下さい。

投稿: FUSION | 2006/03/27 23:06

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