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<Still Life-Talking(スティル・ライフ - トーキング)> 検体番号70 

70 今回解析するのは、「Pat Metheny Group(パット・メセニー・グループ)」の<Still Life-Talking(スティル・ライフ - トーキング)>(1987年発表)です。

秋深し・・・気が付けばもう11月ですね。秋と言えば食欲の秋、読書の秋、そして・・・芸術の秋ですね。フュージョン・シーンにおいて最も芸術性を感じさせてくれるミュージシャンと言えば、個人的にパット・メセニーなんですよね。そんな彼の作品がこれです。

01. Minuano (Six Eight)
02. So May It Secretly Begin
03. Last train Home
04. (It's Just) Talk
05. Third Wind
06. Distance
07. In Her Family

試聴は・・・こちら

Pat Metheny (a-g e-g, g syn)  Lyle Mays (pf, key) Steve Rodby (a-b, e-b)  Paul Wertico (d)  Armando Marcal (per, vo)  David Blamires (vo)  Mark Ledford (vo)

とは言ったものの、私がメセニーの素晴らしさが分かるようになったのは、そんなに昔じゃなかったりします(汗)

01. Minuano (Six Eight)
瞑想的でミステリアスなサウンドが聴くものを迷宮へ誘うかの様な不思議なサウンドですね。粛然とした中にも、不思議と心地よい空間が広がります。
タイトルにある様、6/8拍子による楽曲ですが、ピアノが奏でるシーケンスパターンに不思議なボイスが絡み付いて実に厳かでエレガントな世界を築き上げています。
メセニーのトレードマークでもあるギブソンES-175から紡ぎ出される独特のハリと艶のあるウォームなサウンドが歌い上げるソロも素晴らしいの一言ですね。何よりも繊細で煌く様なフレーズが実に美しくしなやかに流れます。
後半のキーボードのコードワークがポリリズム?的に絡み、臨場感をも演出してくれます。このフレーズは個人的にお気に入りです。

02. So May It Secretly Begin
メセニーの奏でるスウィート&ウォームなトーンから引き出される憂愁溢れるフレーズが、ストリングス的なサウンドのバックとうまく溶け合い、毅然とした美しさと繊細な叙情を余すところ無く表現したその様は感動的ですらあります。スムーズに流れていくサウンドは時に冷たく、時に優しく表情を変えて行きます。それらが合わさった洗練された美しさを充分に御堪能下さい。
また、スティーヴの奏でるアコースティック・ベースが素晴らしい仕事をしています。この曲の持つ情感をより一層高める重要な因子です。

03. Last train Home
今やフュージョンを代表する名曲と言っても過言でない作品ですね。シンプルなサウンドとメロディーですが、情操豊かな楽曲に心身共に癒されます。人の心を優しく包み込んでくれる安堵感と純朴とも言える優しさを感じます。
イントロの機関車をイメージさせるブラシ・ワークとシンセサウンドに、コーラルのエレクトリック・シタールが奏でる牧歌的でアメリカの田舎を連想させるそのサウンドは、我々日本人にとっても忘れていた思い出の景色が蘇る、そんな懐古で万感胸に迫る包容力のあるサウンドに浸ってください。フェード・アウト寸前に聴かれる踏切の警報を模したギター・サウンドが良いですね(笑)。
最終列車に乗ってあの懐かしい我が家へ・・・実に素晴らしく感動的な作品です。聴くものの心に忘れていた何かを思い起こさせてくれるはずですから・・・。

04. (It's Just) Talk
しなやかで小気味良いボサ・ノヴァのリズムと、淀みなく流れる優雅なメロディーが混然となり、繊細な叙情を醸し出した美しい作品です。ライトな手触りでスムーズに流れていくサウンドですが、知らず知らずのうちにリスナーを引寄せる吸引力を持ったサウンドが魅力的ですね。ライルの卓越した演奏力が奏でる芳醇な響きのピアノと、洗練されたアンサンブルが実に素晴らしく、彼らの懐の深さを感じますね。

05. Third Wind
メセニー・グループの魅力を余すところ無く発揮した、多彩なアンサンブルによって生み出されたサウンドが圧倒的な臨場感となりリスナーに迫ってきます。品格が高い洗練された構築美とも言えるアレンジと、ジャズ的で自由なインプロビゼーションに均整の取れた権威的なリズムが渾然一体となり、息苦しくなるほどの緊張感と躍動感溢れるサウンドのバランスが絶妙です。
クロマチックラインの印象的なギター・ソロは凄まじいの一言!16分音符を主体とした多彩なスケーリングによる複雑なラインですが、華麗でしなやかで知的で、そんな彼らしい卓越した素晴らしいギターです。
中盤から聴かれる3連符のリズムに波打つ様なパーカションのアンサンブルが実に不思議な色彩感を演出しています。そこにライルのピアノがリリカルに響き巧妙にこの楽曲に変化を与えています。
また後半に聴かれるローランド・GR300ギター・シンセから放たれる鮮烈で力強いサウンドで奏でられた野性的なプレイも今や彼のトレード・マークと言っても良いですね。
いずれにしても私の許容範囲を遥かに超えたサウンドにただ驚愕するばかりです。

06. Distance
ミステリアスで荘厳な雰囲気を漂わす、チョッと近寄りがたい神秘的とも言える楽曲です。このアルバム中で異端とも言える楽曲です。
霧が立ち込める謎めいた森の中に足を踏み込ませる様な・・・そんな恐怖感が全編を覆っています。
オーケストレーション的なサウンドで彩られたそのサントラ的手法がこのアルバムにおいて新鮮でかつ脳細胞を刺激する一曲として存在しています。

07. In Her Family
哀愁を忍ばせたそのメロディーと冷たいほど透明感の高いサウンドが見事にマッチした情操豊かな作品です。しかし、その冷たく悲しい曲調の中にも、暖かく優しい感性が見え隠れする生命感といったものをも感じられる素晴らしい逸品ですね。
内省的に歌い上げるライルのピアノと、メセニーのアコースティック・ギターのアンサンブルは深層心理さへも覗けそうな程に繊細で優しく、そして幻想的に私の心に響きます。
メセニーのオルゴールの様なアコースティック・ギターですが、あのピカソ・ギターの作成者でもあるリンダ・マッサー製作の7弦クラシック・ギターを1オクターブ上げたものによるサウンドだそうです。

☆☆☆ ここが私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆

冒頭にも記したように、私は当初、パット・メセニーのサウンドと作品の素晴らしさを理解できませんでした。正直、今でも彼の魅力を本当に私自身が理解出来ているのか分かりません。お恥かしい限りです。
フュージョン・シーンのみならず多くのギタリストがメセニーを絶賛していますが、やっとこの歳になって私も彼の素晴らしさを「少しだけ」理解できるようになりました。

今回紹介した作品はそんな彼の魅力に気付かされた、聴き込むほどにその素晴らしさが滲み出てくる類稀な名盤です。

虚空の世界へ引き込んでくれる神秘的な中に溶け込んだ優美なサウンドが魅力的で、幅広い音楽性を、高度な演奏で裏付けされた完成度の高いアルバムですが、フュージョンにありがちな、上辺だけのテクニックだけで凄い楽曲だと錯覚させられる、そんな音楽とは確実に異りる、彼の音楽に対する集中力の高さとアレンジ能力の凄さと非凡なるイマジネーションの豊かさを感じます。

また、このアルバムの隅々から感じ取れるブラジリアン・ボッサ的な楽曲が当時のメセニーのスタイルを象徴していますね。特にアーマンド・マーサルのパーカッションが実に重要な役割を担っています。
そして何よりも、作品全体で聴かれる、演奏と歌声(ヴォイス)が見事に同調したその手法は見事なまでに格調高い旋律としてこのアルバムに刻み込まれています。この作品ではこのボイスは無くてはならない重要な「楽器」となっています。とにかく、パット・メセニー・グループとしてのサウンドの礎を感じさせてくれるには一番格好の作品ではないでしょうか。

しかし、このアルバムに限らず、メセニーの考えるアンサンブルの観点は、基本的に他のミュージシャンと全く異なっているとしか思えないほど独創的で、美しいハーモニーと理知的で威厳のあるサウンドにも係らず自由な空間が目の前に広がります。本当に素晴らしいミュージシャンですね。パット・メセニーという人は。

難解さと美しさを合わせ持ったメロディーラインが事実に素晴らしいバランスで存在しています。この難解なメロディーを自然と聞かせる曲造りに彼の美学を感じますね。それを実現させた知的で緻密なサウンドは彼独自の技法と言っても良いでしょう。その感情を抑えたプレイは内に秘めた激情をも感じさせる、そんな絶妙な表情の変化を刻み込んだ作品です。全ての音が必然性を持っていて、無駄な音が無く、絶妙のバランス感覚で配置された暗と明、静と動が見事に調和し其々が確固に存在している、空間芸術とも呼べる見事な作品です。

☆☆☆ 以上が私的FUSION(フュージョン) ☆☆☆

***1987年のヒット曲*** サマードリーム、I Love you, SAYONARA、バラードのように眠れ、時の流れに身をまかせ

それじゃ。また。

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コメント

こんばんわ・・先を越されてしまいましたね。(笑)
現在ブラジルモードの私としては、ぜひチョイスしたかった1枚です。
・・そんなことより、これが出た頃もブラジルに取り付かれてた事を思い出します。
つられて訳の分らないものまで手を出してましたが、これは別格でした。
'92年リリースのVTR‘More Travels’で#3,5を演ってますが、ブラジル度合いはかなり薄まってるので、やっぱこの盤の音空間に浸ってる方が、私としてはずっと気持ちいいかもです。(笑)

投稿: elmar35 | 2006/11/01 23:07

はじめての書込みです。
いつも楽しく拝見しています。
来てメセニーですか。いつか登場するとは思っていました。私も「Last train Home」好きですよ。
最後に御願いですが、結構いろんなアルバムをレビューされていますが、FUSIONさんの持っているCDリストとかあったら見てみたいですね。

投稿: ゴマちゃん | 2006/11/02 12:32

elmar35さんへ。コメント感謝致します。

以前、elmar35さんがメセニーをレビューされてから「いつか自分も・・・」と思っていました(笑)

私がメセニーの良さを知ったアルバムが今回の作品です。私は正直、ブラジル音楽は疎いので何とも言えませんが、メセニーと言うフィルターを通した彼の音空間が魅力的です。

PS・何時もコメント恐縮です。

投稿: FUSION | 2006/11/02 23:02

ゴマちゃん さんへ。コメント感謝致します。

初めまして。何時も私のブログを見て頂いてる様で有難う御座います。

CDリストの件ですが・・・ゴメンなさい、作っていません(汗)普段はCD棚に雑然と並べていて、あまり聴かないCDはダンボールの中という有様です(恥)。一度はリストを作成しようとしたのですが・・・でも、この機会にチョッと考えて見ます。
と言ったわけで今回はご勘弁下さい。

是からもお付合いの程、よろしくお願い致します。

投稿: FUSION | 2006/11/02 23:08

私もメセニーを知ったのこのアルバムからです。
あまりに独創的なのでびっくりした記憶がありますが、好きな世界です。
このアルバムは本当に彼の代表作のようです。
Select Live Under The Skyでも#1、5を演奏していましたし、
最近のライブでもオーケストラとの競演でこの曲を演奏しています。
ただ、オケのほうはうまく乗れていないようですが、、、
http://ameblo.jp/bonejive/entry-10016960243.html
にて記事にしてあります。
もしよろしければこちらからYou Tubeの映像にいってみてください。

投稿: bonejive | 2006/11/03 10:20

bonejive さんへ。コメント感謝致します。

bonejive さんもメセニーを好きな事は知っていました。と言うのも以前に訪問した際、貴兄のブログから今回お奨め頂いた映像を拝見しました。非常に興味深い映像ですね。お礼も言わないでスルーした事、ここでお詫びします(汗)

私の場合、メセニーはこれ以前からも聴いてはいたのですが、今ひとつ理解できない点が有ったのです。しかし、この「Still Life」から彼の良さをチョッとだけ理解出来た気がします・・・。

投稿: FUSION | 2006/11/03 19:50

パット・メセニーは数曲程度かアルバム1枚だったか忘れたけど聞いたことはあります。
それなりに心地良いサウンドだったけど、アルバムを欲しいとは思いませんでした。(^_^ゞ
1枚買うと次々と買いたくなる性分なので、ちょっとやそっとじゃ手を出せないという感じです。(苦笑)

そっと始めた(笑)僕のブログがそろそろクロスオーバー/フュージョンもupするようになるのでお知らせします。
FUSIONさんのような分析はありませんけど、もし興味を持てそうだったら見てください。

投稿: WESING | 2006/11/05 00:29

WESINGさんへ。コメント感謝致します。

ブログを開設されたことは風の噂(笑)で知っていましたが、WESINGさんより直接お誘い頂けた事、嬉しいです。遅れながらおめでとう御座います。早速お伺いします。

メセニーですが、私も彼の良さに気が付いたのはそんなに昔じゃなかったりします。何れにしても手強いミュージシャンですよ、メセニーは・・・私にとっても、そしてWESINGさんにとっても・・・多分。

投稿: FUSION | 2006/11/05 10:51

メセニーが現在所属しているノンサッチからこれを含めたゲフィン期のアルバムのリマスター版が出ているので買おうかどうしようか悩み中。

投稿: でんた | 2006/11/05 17:02

でんたさんへ。コメント感謝致します。

私はレコード・レーベル等の事は正直よく分かりませんが、確かにゲフィン・レコード時代の音源はメセニーにとって現在の彼を築いた素晴らしいアルバムが多いですよね。特にソングXなど素晴らしい作品が目白押しといった感じですね。
リマスター版と言う事は音質も向上している事でしょうから購入すべきかと・・・私は今あるので我慢します(汗)

投稿: FUSION | 2006/11/05 17:24

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